BEHIND THE
DEVELOPMENT
ファイトリッチ開発秘話
「タマネギしか作れない」
そんなタマネギ一筋の開発者が生み出したケルセチン量含有約1.5倍のタマネギ
抗酸化作用があるというケルセチンを豊富に含むタマネギ「ケルたま」を生み出した開発者鈴木さんは、入社以来タマネギ一筋25年。4年間アメリカに駐在し、アメリカ、ブラジル向けの育種に携わった経験も。
「タマネギの品種しか作ったことがないんです」と謙遜しますが、四半世紀にわたってタマネギの品種開発を極めたタマネギ一筋の開発者です。
今でもシーズンになると、国内外を調査で飛び回り、気づけば痩せてしまっている、というほど全身全霊でタマネギの品種開発に取り組んでいる鈴木さん。
そんな彼が15年の歳月をかけて世に送り出した「ケルたま」の話をご紹介します。
(※)ケルセチン含有量は従来タマネギ(ネオアース)に比べ約1.5倍。

開発者:鈴木さん
タマネギの品種開発一筋。
静かな情熱を一心に注ぎ、「ファイトリッチ」品種を含む数々のタマネギ品種開発を手がける。

もっと多くの方に届けたい!
2026年現在も北海道の夕張郡にある長沼農場でタマネギの品種開発を続けている鈴木さん。入社すぐに携わったのが「ケルたま」の開発でした。
2000年の入社当時、北海道のみで栽培されていたケルセチンを豊富に含むタマネギ「Dr.ケルシー」という品種がありましたが、
「ケルセチンを多く含むタマネギが北海道でしか栽培されていないのはもったいない。
もっと多くの人に機能性成分を豊富に含む、おいしいタマネギを食べてもらいたい」。
そんな思いから、北海道以外の気候でも育てやすいケルセチン含有量の高いタマネギの品種開発が動き出します。
これが「ケルたま」開発の始まりでした。

タマネギは品種開発がもっとも時間がかかる野菜!?
数ある作物の中で、品種開発に最も時間がかかるのが「タマネギ」。
1年目でいわゆるネギ坊主ができるのを待ち、2年目でそこからタネをとるため他の作物よりも時間がかかります。それゆえ「1つの品種開発の最初から最後まで見届けられることは珍しい」といわれるほど。
通常、品種開発はチームを構成して行われますが、
開発のコンセプトと方向性を決定し指示を出すチーフや、
育種設計を行い、具体的な交配や選抜を進めるブリーダー
など、さまざまなメンバーでチームが構成されています。
「ケルたま」開発チームもブリーダーの鈴木さんを除いては途中でメンバーが入れ替わりながら品種開発を進めていきました。

チームがぶつかった大きな2つの壁
「ケルたま」開発チームがぶつかった大きな2つの壁。
それは「ケルセチン含有量の安定化」と、本州での栽培を可能にする「栽培特性の付与」でした 。
「タマネギに含まれるケルセチン量は個体差が大きく、目標値を安定してクリアする系統を見つけるのは、地道で忍耐力を要する作業でした」 と、鈴木さんは当時の苦労を明かします。
さらに北海道の品種をベースにしながらも、本州の気候風土で栽培できる特性を付与するという壁も待ち受けていました。
北海道では 2 月にタネまきをし、4 月の終わりに苗を植えて 8 月から 9 月にかけて収穫する周期でタマネギを栽培しますが、本州では9月にタネをまき、11月に苗を植え、冬を越して4月から6月に収穫する「冬越し栽培」となります。「冬を越す」ことで苗が低温に当たると意図せず花芽がついてしまう「抽苔(ちゅうだい)」という現象が起こりやすくなり、起こると商品価値が失われます。
これは北海道でタマネギを栽培するときには見られない現象のため、ケルセチン含有量が高い北海道の品種に抽苔しにくい特性を加えることは非常に重要な課題であり、これが大きな壁となりました。
初期段階では、ケルセチン含有量が高く本州でも栽培可能なタマネギの親を掛け合わせ、双方のいいところ取りを目指しました。選抜は、最初は多種多様な中から選び、終盤ではよりよいものを絞り込む選び方で行いました。
何度も試行錯誤を重ね、「ケルたま」が正式に発表されたのはタキイ種苗創業180周年となる2015年でした。
「ケルたま」の構想から発表までに実に約15年もの歳月が費やされました 。

揺るがない決意、下された決断
ケルセチン含有量と貯蔵性の高さは、「ケルたま」を作る上で絶対に譲れないポイントでした。しかし、これらの特性を追求すると収穫時期が遅くなる傾向がありました。開発途中には収穫時期が早まる系統も出現しましたが、それを選ぶとケルセチン含有量や貯蔵性が落ちてしまう。チームは何度も議論を重ねた結果、「収穫時期は遅くなってもよいから、ケルセチン含有量と貯蔵性が最もすぐれるもので仕上げよう」と決定しました。
「この経験が、ブリーダーとしてコンセプトや目標が簡単にぶれてはいけないということを、私に教えてくれました」と鈴木さんは語ります。
どこを目指して品種を開発していくのか、優先すべきことは何か。
品種開発に携わる者なら誰しもに降りかかる選択に対し、どのように決断していくべきなのか、鈴木さんの経験はそれを教えてくれます。

「ケルたま」の真価を味わって欲しい!
「ケルたま」は、生で食べると辛みや苦みが感じられ、生食には適しませんが、「ケルたま」は加熱調理でその真価を発揮します 。
「カレーや味噌汁など、熱を加えることでタマネギ本来の甘みがぐっと引き出され、おいしさを味わっていただけます」と鈴木さん。
「ケルたま」のとろけるようなおいしさを存分に味わっていただけるオニオンスープはぜひ試していただきたい一品です。
ケルセチン含有量と味には直接的な関係はありませんが、開発段階から「数字で測れなくてもおいしくなければダメだ」という強い信念を持ち、加熱後のおいしさへの妥協はありませんでした 。
そのうえ、ケルセチンは熱に強く、加熱調理してもその含有量は大きく減少しないことものちにわかっています。
トマトなどと比較するとまだまだ品種で選ばれることの少ないタマネギ。そのタマネギの中にあって「おいしさ」、「ケルセチンを豊富に含むこと」で選ばれるタマネギになりたい。
開発チームの妥協のないこだわりが結実した「ケルたま」だけのおいしさ、ぜひ味わっていただきたいと思います。

「ケルたま」がバスに!!
鈴木さんを感動させた一枚の写真
最後に、ちょっとステキなエピソードを一つ。
「ケルたま」を世に送り出したのち、鈴木さんは淡路島の法人が「ケルたま」をラッピングしたバスを走らせている写真を目にしたのです。
「神戸・三宮の駅で、『ケルたま』のラッピングバスが走っているのを知った時は、『ここまで使ってもらえるんだ』と純粋に嬉しかったですね。タマネギの品種で、こんな形でPRに使ってもらえることは滅多にありませんから、本当に感動しました」。
自らの手で生み出した品種が、生産者様に愛され、大きくPRされる存在となっている。それは、開発者にとって大きな喜びであり、さらなる開発への原動力となったに違いありません。
「ファイトリッチ」の魅力をもっと知ってもらいたい。
そんな思いからそれぞれの野菜の品種開発エピソードをご紹介する「開発秘話シリーズ」。
ほかの野菜にもそれぞれ、開発を行っていく中でのエピソードや、研究者の思いなどがたくさん詰まっています。
色々な野菜の「開発秘話」をぜひチェックしてみてください!
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