EPISODE 11

株式会社広瀬青果

生産者
兵庫県

広瀬哲典さん、福岡一賀さん、 広瀬詳大さん

淡路島のタマネギに革命を!
広瀬青果が挑む「世界一おいしい」への飽くなき探求心

「淡路島のタマネギ」と聞けば、そのおいしさは誰もが認めるところではないでしょうか。しかし、その中でもひときわ輝きを放つ「世界一おいしいタマネギ」を目指し、日々奮闘する生産者がおられます。それが、淡路島で約40ヘクタールもの広大な土地を耕す、株式会社広瀬青果です。タマネギ栽培においては島内随一の規模を誇りながらも、現状に満足せず、常に新しい農業設備や取り組みを積極的に実践する、まさに「生産者のリーダー」的存在。今回は、広瀬青果の広瀬社長と福岡専務、そして次世代を担う社長ご子息の詳大(しょうた)さんにお話を伺いました。

淡路島の恵みと、たゆまぬ努力が育む「世界一おいしいタマネギ」

「世界一おいしいタマネギ」を作る──その力強い言葉の裏には、淡路島が持つ豊かな自然の恵みと、広瀬青果の並々ならぬこだわりがありました。
「淡路島は年間平均気温が約16℃と温暖で、海に囲まれているためミネラルたっぷりの潮風がタマネギに良い影響を与えてくれるんです」と語る広瀬社長。しかし、それだけではありません。「せっかくやるならおいしいものを作りたい」という思いから、広瀬青果のタマネギは、一般的な化学肥料ではなく、有機肥料とカルシウムを贅沢に使って育てられています。

「有機肥料はじわじわと、時間をかけてタマネギの甘みを凝縮させてくれるんですよ。まるで、濃縮トマトのように、ギュッと旨味が詰まった甘いタマネギができるんです」と、広瀬社長はそのおいしさを表現します。この栽培方法は、手間もコストもかかるため、他の農家ではなかなか真似できないのだとか。

「農業は1年1年が勉強。栽培方法も肥料も、常に変化し続けています」と語る福岡専務の言葉には、現状に甘んじることなく、より良いものを追求するプロとしての思いを感じました。

「ファイトリッチ」との出会い、そして「ケルたま」への挑戦

タマネギの栽培は年1作。対して売り場からは周年需要がありました。そんな中、タキイ種苗から「ケルたま」という品種の話を聞き、その可能性にひかれたと言います。
「『ケルたま』は貯蔵性にすぐれていて、一年中問屋さんなどお客様に使ってもらえるのが魅力でした。関西のスーパーが置いてくれるという話もあったので、栽培を始めたんです」と、広瀬社長は振り返ります。実際に、加工用も含めると8月から翌年6月前半まで販売することができ、これにより、ほとんど一年中、広瀬青果の淡路島産タマネギを提供できるようになりました。

もちろん、新しい品種への挑戦には苦労も伴います。
「『ケルたま』の栽培には少し難しい部分もあります。畑で栽培する期間が一番長い品種なので、早く定植して遅く収穫する分、お金に変わるまでの時間が長いんです。それに、他の品種に比べ、『ケルたま』は収穫量も少なめなんです」とのこと。しかし、広瀬社長は続けます。「でもね、ケルたまの通常の収穫量だと、市場で最も販売しやすいL中心のサイズになるんですよ。だから、結果的に単価が上がるメリットがあるんです」。単に収穫量だけでなく、市場のニーズに合わせた品質とサイズを追求することで、「ケルたま」の価値を最大限に引き出しているのです。

「ケルたま」は、生食よりも火を通す料理で甘みが増し、その真価を発揮するタマネギです。炒め物や煮込み料理はもちろん、フライドオニオンやカレーなど、加工にも最適。しっかり火を通しても味わいが残り、コクが感じられるのが特徴だそう。

変化する気候と、未来を見据えた栽培戦略

「ケルたま」の定植のタイミングは、気候をみながら毎年調整しているそうです。「いつも早めに定植すると大玉になりすぎるため、2026年は少し遅らせて定植することも検討しています」。

近年の温暖化がタマネギ栽培に与える影響は無視できません。特に収穫後の貯蔵は大きな課題となっています。
「収穫後はタマネギを小屋に吊るして乾燥させていましたが、品質の低下がみられるようになり、吊るして乾燥させる期間は短くなりました」と、気候変動が現場にもたらす影響は甚大です。これは「ケルたま」に限らず、タマネギ全体にいえることだと言います。

次世代が描く、「ファイトリッチ」と日本の野菜の未来

「次世代は流行や健康を重視する傾向にあると思います。『ケルたま』をはじめとする『ファイトリッチ』を通じて、健康的に野菜を食べてもらう意識を醸成し、日本の野菜全体の消費量を底上げしていきたいと考えています」と、次世代を担う広瀬詳大さんは力強く語ります。
そして、詳大さんは、お客様へのアプローチについて具体的な展望も話してくれました。
「若い世代(20代、30代男性)の一人暮らしだと、キャベツ丸ごとでは量が多すぎるといった購入のハードルがあります。また、価格が高いと買わない傾向にあります。そこで重要なのは、食べやすい加工品を提供したり、生産者の顔を見せることだと考えています」。

SNSやテレビなどを活用して、作り手の情報を発信することで、消費者側に親近感が湧き、「この人たちが作ったタマネギなら、少し高くても買おう」と思ってもらえるはずだと詳大さんは言います。
「生産者としては儲けたいですが、消費者は良いものを安く買いたいという難しいバランスがあります。健康的なイメージをより伝えられるような見せ方をしていきたいです」。

広瀬青果の「ケル玉(商品名)」は、生鮮タマネギで初めてケルセチンを多く含む機能性表示食品として販売を開始。
パッケージには「やる気を維持する機能があることが報告されている」と記載され、関西のスーパー等で販売されています。詳大さんは、「機能性がネタとなって購入のきっかけとなり、そこから他の品種も含めた広瀬青果のタマネギの需要を上げていきたい」と語ります。
消費者に機能性を認知してもらう上でも、「『ケルたま』を売る中で、『ファイトリッチ』というブランド名も一緒に売っていきたい」。消費者のニーズと生産者の思いの間に立ち、新たな価値を創造しようとする詳大さんの熱意が伝わってきました。

そんな「やる気を維持する機能」のあるケルセチンを豊富に含んだ「ケルたま」を食べている広瀬青果の皆さんは、おいしい野菜作りのためにユニークな取り組みも行っています。なんと!社内にトレーニングルームがあるのです。
体力づくりはもちろん、トレーニングをしながら社員同士でコミュニケーションを取るなど充実した日々を送られています。その元気と活力が、畑で育つ野菜たちにも良い影響を与えていると言えそうです。人も野菜も、健康でパワフルに育つ。それが広瀬青果流の野菜作りなのです。

「淡路島」から「広瀬青果」へ
──ブランドへの挑戦

「現在は『淡路島のタマネギ』というブランドが売れていますが、今後生産者が減っていくと、淡路島というブランドが希薄になる可能性があります。そうなった時にどう戦うかを考えると、『広瀬青果のタマネギ』として、淡路島という枠にとらわれずに販売していきたいと考えています」。

そのための武器として、「ケルたま」をはじめとする「ファイトリッチ」が非常に重要になると詳大さんは強調します。地域ブランドに甘んじることなく、独自の道を切り開こうとする広瀬青果の挑戦には、これからも目が離せません。